空一空の連載小説

                真贋(上巻 青春編)
                (毎金曜日更新)

                お断り
 何時もご愛読頂き感謝しています。
 さて、著者 空一空のよんどころのない野暮用のため、”真贋”12月9日(金)分を本日に繰り上げ掲載し、
12月16日(金)は休載させて頂きます。尚、12月23日(金)からは通常連載の予定です。
 これに懲りずご愛読のほど願い上げます。

                十三 蛮 勇

 泰一は第二学期始業式には出られなかった。
 金堂校長、教務課長・森先生、応用化学科・采女科長らに伴われて、高松発大阪行き夜行列車で神戸駅に着いたのは、午前八時過ぎであった。一同は駅前食堂で簡単な朝食を取って、県教育委員会に挨拶に向かったからだ。
 県教委に向かうタクシーの中で、泰一は寝不足の頭脳は香川県警の二度目の執拗な尋問を回顧していた。
 《三人組は金本一雄、倉沢 和、丹山賢一で、リーダーは金本である。いずれも十九歳で少年法が適用されるから、暴力行為で起訴出来ず”補導”に該当する》
という。納得できなかった。
 逆に自分は、新聞記者会見でチョット脚色して言ったことが問題視され、こってりとで絞られたことが悔しかった。
 ”悪い奴らを懲らしめてやったんだから、少々芝居かかったことを言ったていいじゃないか。
 それを、過剰防衛の疑いがあるの、いや、もてない自分が情けなくなって、やっかみ半分でナイト気取りで手を出したんじゃないか、拳法の腕試しをやったんじゃないかとか・・・・・。しゃくに障るよ。 それだけではないよ、どこで調べてきたのか、三月のヤレコン後のことまで持ち出してきて前科者扱いをされたのも腹が立つ”
 そんな心境が顔に出ていたのか、采女科長が心配そうに声を掛けてきた。
 「領野君、県教委では余計なことを言ってはいかんよ。手数を煩わしたんだからね。ご迷惑をおかけしましたってひたすら頭を下げることだね」
 「・・・・あ、ハイ、わかりました・・・」
 采女科長の易しい一言で泰一はなんだか、心が吹っ切れた感じがした。
 県教委では指導部長、高等学校教育課、教職員課等に謝罪に等しい挨拶回りをしたが、多くの指導主事や行政職の中には、賞賛のまなざしで見つめる者もいたが、あからさまに非難か批判の視線を向けてくる者もいた。
 泰一はこれらを悉く自分に対する拍手であると受け止め、昂然と胸を張って庁内を歩いていた。
 そんな泰一を見て失笑する者やそっぽを向く者もいたが、彼はその雰囲気には全く無反応であった。
 タクシーで学校に帰ったら、校門を入るとすぐ校長が厳しい顔で
 「領野君、校長室に来なさい。采女先生ご苦労様でした。お引き取り願って休養を取って下さい。森先生も苦労様でした。済まないが、三人の校務出張届け並びに完了報告書を事務長と相談して、明日でも提出して下さい。先生もお休み下さい・・・・・」
 森先生が退出するのを待ちかねたように校長は厳しい顔を向けてきた。座れとも言わず校長席に腰を下ろして
 「領野君、君は良いことをしたと思っているだろうが、世間は別な見方をする向きもあることを知っておいて下さい。生徒集団から色々と聞いてくるだろうが、誇張したことを言わないように。先生方に対しても同様に考えて下さい。
 女子大生の方へは私が対応しますから心得ておいて下さい。
 ああ、それから、一学期の最終職員会議で持ち越しになって居る、拳法同好会発足の件は暫く校長預かりとしておくのでそのつもりで。ご苦労様でした」
 「申し訳ございませんでした。失礼します」
 釈然としない気持ちで退出したが、気分は寝不足も手伝ってどんよりとしていた。科に向かう足取りも重かった。
 昼休みを知らせるチャイムが鳴った。
 今日は始業式だから、授業はない。大半の生徒は式後ホームルームの後、下校している
が、クラブ活動の生徒も多数在校しているから校内は賑やかだ。
 彼らは午後の活動に備え、腹ごしらえに食堂に向かっている。
 だが、食堂に向かう多くの生徒達とすれ違う度に少しずつ生気がよみがえってきたようだ。
 多くの生徒が廊下の片側によって彼の進路をあけたり、部室の窓から身を乗り出して手を振り、親愛ぶりを示し、尊敬のまなざしを向け、中には拍手する者まで出てきたからだ。
 実習棟に向かう通路にでると、運動場でトンボを掛けている野球部の連中が目ざとく彼を見つけ、大急ぎで駆け寄り、彼らの中から握手を求めるグループまで出現するに至って、彼の周りに生徒の囲みが出来てしまう始末になった。
 泰一は軽く右手を挙げ、彼らを制しながら自分の実験室に急いだ。
 実験棟に入ると何とも形容のしようのない臭気が鼻をついた。しかし、いやな臭いではない。赴任当時は耐えられないかも知れないと感じたが、一学期間嗅ぎ続けているうち、馴れてしまったのか今では懐かしい感じもするから不思議だ。
 自分の実験室から実習助手の大下が出てきた。
 「ああ、先生お帰りなさい。今朝、三年生が宿題の論文をまとめて提出してきました。出席順にまとめて机の上に置いてあります。未提出の者もいますが先生の方でチェック願います・・・・」
 「ああ、ありがとう・・・」
 大下は一礼してサッサと自分の部屋に行ってしまった。
 昨日の事件について質問や労いの言葉があってしかるべきなのに、全く反応がない。
 そもそも、奴は陰下の子分に甘んじているんだから、まぁ仕方がない。いつかとっちめてやるからそう思えってなもんだと彼の無礼さを詰っていた。
 泰一は科の予定表では午後に科会になって居るから、それまでに昼食を済まして置かねばならない。だが、食欲がない。
 夜行列車では全くと言っていいほど眠れなかった。かろうじて姫路駅を発車してから眠った程度だ。
 食欲がないのは睡眠不足もあるが、朝食を取ってからまだ四時間しか経っていないことも原因だろう。でも、軽くてもいいから腹に何か入れておこうと思った

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