空一空の連載小説
真 贋(上巻 青春編)
(週刊連載 毎金曜日更新)
第5回
二 出 願
新年度発足と同時に、通商産業大臣の池田勇人が”月給2倍論”を唱え、通産省官僚・下村治が「経済成長の実現のために」を刊行して所得倍増政策の基礎が固まった。
それは間違いなく経済界を刺激して空前の景気に湧いている。
泰一の休学命令は五月の連休前に解除してくれた。ヤレヤレだ。
天下晴れて就活ができるぞっとばかりに勇み立って精力的の企業の採用試験を受け出した。
初めに受けたT薬品工業は書類審査で”貴意に沿い兼ねる”と提出書類が返送されてきた。
次のS化学工業は何の連絡もないから、筆答試験の日程を問い合わせたら、”残念ながらあなたは受験資格欠如です”という。何が受験資格なのかわからぬままに次の会社を探さなければならなかった。
一流企業ばっか狙っていたが軒並み、書類審査ではねられるか、筆記試験にこぎ着けてもことごとく不合格であった。せめて面接試験までいけたら何とかなると思いながら、そこまでたどり着けないから悔しかった。
夏休みはかなり長期間である。
泰一は春に帰省していなかったせいもあり、母親との約束を守らなければならなかったから帰省しないわけにはいかない。
帰省時に一流企業合格を土産にできたらと必死に就活をやったが、六月末までに受験したすべての企業から内定を頂くことはなかった。
泰一は七月初めに帰省した
「就職はそう慌てなくてもいいよ。卒業までにきめればいいんだから」
母親はそんなに気にしていないが伯父はそうではなかった。
「お前は民間企業ばっか狙っとるが、官公庁や教員も視野に入れたらどうなんだ。例えば、自衛隊の幹部候補生もいいぞ。卒業すれば少尉だ。将校になれるぞ」
伯父は自分が果たせなかった将校への夢を甥っ子に求めている。
「そうですね・・・。官公庁も良いですね。教員も教職課程は取っていますから、中学校理科・数学一級・高等学校も同じ教科で二級がもらえますから・・・・」
「そうか、教育実習は終わっているの・・・・」
「三回生の時に・・・・」
「どこでやったの」
「附属中学校でやらせてもらいました」
「ええっ、だったら高校教員にはなれないじゃないか」
「そんなことはありません。教育実習は校種を問わないんです」
「そっか・・・・。自衛隊は視野に入っているの」
まだこだわっている。
「いえ、学校に募集要項はきています。でも・・・・・」
「でも、なんだ・・・・」
「はぁ、企業ばっか考えていましたから・・・・応募時期を逸しましたので・・・」
これは嘘ではない。締め切りは六月半ばだった。
「そうか、残念だね。だったら、教員採用試験を受けてみろよ。これだったらまだ出願は間に合うだろう。高等学校教員がいいなぁ」
教員採用テストの時期は各府県によって違うが概ね七月末に一次試験、八月中旬に二次試験がある。
母親とは長くそばに居たいが、そうすると伯父とも顔を合わさなければならない。相反する気持ちをどうするか悩んでいる。
「そうだ、教員試験の応募時期はたぶん七月一〇日辺りだったように思う。
かぁさん、悪いけど明後日学校にかえるよ。伯父さんの言うように学校の先生になるって良いことだと思う。うん、そうしよう。ね、かぁさんもそう思うだろう」
「まぁ、お前が高等学校の先生になるの。わたしゃうれしいよ。じゃぁ、準備しなくっちゃぁね」
「あっはっは、準備しなくっちゃって・・・・アッハッハ、すぐ先生になれるって決まったわけではないよ。試験受けて合格してからだよ」
「そうだったね・・・・ウッフッフッフ」
「どこの採用試験を受けるつもりだ」
「はぁ、それはまだ・・・・各府県の採用試験要項を見て考えます」
「そうだね。できたら郷里が良いぞ」
「そうですね」
とは答えたが郷里の教員にはなりたくない。大阪か兵庫、京都辺りだったら採用人員も多く望みがあるからだ。
(週刊連載 毎金曜日更新)
第5回
二 出 願
新年度発足と同時に、通商産業大臣の池田勇人が”月給2倍論”を唱え、通産省官僚・下村治が「経済成長の実現のために」を刊行して所得倍増政策の基礎が固まった。
それは間違いなく経済界を刺激して空前の景気に湧いている。
泰一の休学命令は五月の連休前に解除してくれた。ヤレヤレだ。
天下晴れて就活ができるぞっとばかりに勇み立って精力的の企業の採用試験を受け出した。
初めに受けたT薬品工業は書類審査で”貴意に沿い兼ねる”と提出書類が返送されてきた。
次のS化学工業は何の連絡もないから、筆答試験の日程を問い合わせたら、”残念ながらあなたは受験資格欠如です”という。何が受験資格なのかわからぬままに次の会社を探さなければならなかった。
一流企業ばっか狙っていたが軒並み、書類審査ではねられるか、筆記試験にこぎ着けてもことごとく不合格であった。せめて面接試験までいけたら何とかなると思いながら、そこまでたどり着けないから悔しかった。
夏休みはかなり長期間である。
泰一は春に帰省していなかったせいもあり、母親との約束を守らなければならなかったから帰省しないわけにはいかない。
帰省時に一流企業合格を土産にできたらと必死に就活をやったが、六月末までに受験したすべての企業から内定を頂くことはなかった。
泰一は七月初めに帰省した
「就職はそう慌てなくてもいいよ。卒業までにきめればいいんだから」
母親はそんなに気にしていないが伯父はそうではなかった。
「お前は民間企業ばっか狙っとるが、官公庁や教員も視野に入れたらどうなんだ。例えば、自衛隊の幹部候補生もいいぞ。卒業すれば少尉だ。将校になれるぞ」
伯父は自分が果たせなかった将校への夢を甥っ子に求めている。
「そうですね・・・。官公庁も良いですね。教員も教職課程は取っていますから、中学校理科・数学一級・高等学校も同じ教科で二級がもらえますから・・・・」
「そうか、教育実習は終わっているの・・・・」
「三回生の時に・・・・」
「どこでやったの」
「附属中学校でやらせてもらいました」
「ええっ、だったら高校教員にはなれないじゃないか」
「そんなことはありません。教育実習は校種を問わないんです」
「そっか・・・・。自衛隊は視野に入っているの」
まだこだわっている。
「いえ、学校に募集要項はきています。でも・・・・・」
「でも、なんだ・・・・」
「はぁ、企業ばっか考えていましたから・・・・応募時期を逸しましたので・・・」
これは嘘ではない。締め切りは六月半ばだった。
「そうか、残念だね。だったら、教員採用試験を受けてみろよ。これだったらまだ出願は間に合うだろう。高等学校教員がいいなぁ」
教員採用テストの時期は各府県によって違うが概ね七月末に一次試験、八月中旬に二次試験がある。
母親とは長くそばに居たいが、そうすると伯父とも顔を合わさなければならない。相反する気持ちをどうするか悩んでいる。
「そうだ、教員試験の応募時期はたぶん七月一〇日辺りだったように思う。
かぁさん、悪いけど明後日学校にかえるよ。伯父さんの言うように学校の先生になるって良いことだと思う。うん、そうしよう。ね、かぁさんもそう思うだろう」
「まぁ、お前が高等学校の先生になるの。わたしゃうれしいよ。じゃぁ、準備しなくっちゃぁね」
「あっはっは、準備しなくっちゃって・・・・アッハッハ、すぐ先生になれるって決まったわけではないよ。試験受けて合格してからだよ」
「そうだったね・・・・ウッフッフッフ」
「どこの採用試験を受けるつもりだ」
「はぁ、それはまだ・・・・各府県の採用試験要項を見て考えます」
「そうだね。できたら郷里が良いぞ」
「そうですね」
とは答えたが郷里の教員にはなりたくない。大阪か兵庫、京都辺りだったら採用人員も多く望みがあるからだ。
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