空一空の連載小説

                         真  贋(上巻 青春編)
                         (週刊連載 毎金曜日更新)


                                  第5回 

 良い口実を見つけて帰校した。
 翌日、学生課に顔を出したが、閑散としている。夏期休暇中だから学生の姿もチラホラで職員も夏休みを取っているのか、いつもの活気がない。
 「済みません・・・・・」
 担当の主査はチラツと一瞥したがこっちに来ようとはしない。聞こえなかったかもしれないともう一度声をかけたらヤッコラサといった感じでカウンターに来た。
 主査はまともに泰一の顔を見ず
 「今度はどこを受けるんですゥ・・・」
 ”こいつは、《東京発ダイヤ》って課内で評判の学生だ。下り一方、つまり書類返却一方ってわけだ。この暑いのにどこを受けようってのか。せっかくゆっくりしているのに”
 声には出さないが顔には不満たらたらの表情が読み取れる。
 普通の感覚の持ち主だったら憤然として口論になるか踵を返すだろう。
 だが、泰一はこれには慣れっこになって居るから平然としている。
 「イエ、企業ではなく教員採用試験を受けようと思うんです」
 「へぇ~、君が。教員・・・にねぇ・・・・」
 何とも言えない侮蔑の態度だ。
 この言葉にはさすがに鈍い泰一もカチンときた。
 「ボクが教員試験を受けたらイカンのですかっ・・・」
 書類をかたづけていた女子事務員がびっくりした顔をこっちに向けた。
 さすがに主査も拳法二段の腕前を知っているから、彼の心情を害してはいけないと思って語調を改めた。
 少々狼狽気味に
  「イエイエ・・・・そういう意味ではなくってぇ~・・・・・ええと、どこの県を受けるんですウ・・・・」
 しかし、やっぱり語尾に軽蔑が含んでいる。
 泰一は鋭い一瞥をくれてやった。主査は、ドギマギした態度で下を向いている。
 「とにかく近畿の・・・とりあえず大阪、京都、兵庫を・・・・・」
 怒りの余韻があるからぶっきらぼうに言った。
 主査はまたこの学生を怒らせてはイカンと思ったのか、バネ仕掛けの人形のように立ち上がって、ロッカーに向かった。
 各府県から送られてきた分厚い大型封筒を取り出しながら、それでも
 「各府県の出願締め切りは十日前後ですが、試験日が重なる場合があるから気をつけてください」
 言い方を少し丁寧にして付け加えた。
 無言で頭だけ下げて下校した。
 駅前で冷えたラムネを飲んだら、鬱憤が少し晴れたようだ。
 試験日は一日づつずれているが二次試験の日程はどこの府県も”八月中旬”となっている。願書は三府県にだせるからうれしい。
 受験するにもどんな問題が出るのかさっぱり見当が付かない。会社の試験も千差万別だった。教員採用試験に企業のような問題が出ないだろうと思う。
 駅前の本屋で各府県の「教員採用試験・傾向と対策」を買い込み必死に勉強した。
 この勉強方法は泰一のお得意とするところである。
  

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